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噛み合わない歯車たち。『ぴにおん! 2』

JUGEMテーマ:読書 

俺の名前は佐々木与四郎。ちょっとした超能力が使える高校生だ。超能力を使い、俺は学校の平和を守るヒーローとして、校内でも大人気だ。――すまん嘘だ。むしろ学校内の風紀を乱す根源として佐々木シフトなる包囲体制をひかれるくらいに人望がある。というのも、とある理由で学校でも指折りの可愛い女の子たちに囲まれているからな。最終的についたあだ名は「淫獣」……さすがに酷くない? そんな中、ナナさんの双子の弟・ヒカルが突然「ミス研」に入りたいと言い出してきた。その理由は――二葉に興味を持ったから!? えっと、俺はいったいどうすりゃいいんだ? 新感覚超能力コメディ、ラブ増量で人気も増量(?)の第2巻が颯爽と登場!
(本作あらすじより)

第四回MF文庫Jライトノベル新人賞で佳作を受賞した作品の続編。良い意味で特殊な世界観が作品に馴染んできて、普通の話になってきた感じ。単刀直入に言って「月並み」という表現がしっくりくるような作風だけど、構成と伏線がよく練られているので作品自体に対する好感度は高いです。読みやすい文体も好み。

相変わらず周囲から顧みてもらえない与四郎が可哀想すぎる……。好みの問題なんだろうけど、主人公が捻くれているわけでもないのに全く報われないとか、忌み嫌われているとか、そういう不条理な不幸設定がすごく苦手なんですよね。とはいえ、後半になってくると徐々に女性陣の本心も垣間見えてきて、結構イイ感じの雰囲気になるので、今後の展開に期待したいところです。今回のメインであるナナさんや、その弟との騒動の顛末は、そこまで伏線が張られているとは思っていなかったので驚き。次巻では、個人的に気に入っているニーナがメインになるようなので楽しみです。
 

押してもらえると士気が微増します。
posted by: よしきち | ライトノベル感想 | 21:37 | comments(0) | trackbacks(0) | - |

それは、誇り高き蛮族。『雪蟷螂』

紅玉 いづき
アスキーメディアワークス

JUGEMテーマ:読書 

涙も凍る冬の山脈に雪蟷螂の女が起つ。この婚礼に永遠の祝福を―。

長きにわたって氷血戦争を続けていたフェルビエ族とミルデ族。その戦に終止符を打つため、ひとつの約束がなされた。それは、想い人を喰らう“雪蟷螂”とも言われるフェルビエ族の女族長アルテシアと、永遠生を信仰する敵族ミルデ族長オウガとの政略結婚だった。しかし、その約束の儀は、世代を超えて交錯する人々の想いにより阻まれる。

果たして、山脈の地に平和は訪れるのか。そして、極寒の地に舞う恋の行方は…。

『ミミズクと夜の王』『MAMA』に続く“人喰い物語”最終譚。 
ブログの立ち上げ以来、紹介文は自分で考えていたんですが、感想記事を書く時間の大部分をそこにとられていることに今さらながら気付きました。現在仕事も忙しかったりするので…。今後、読書記事での紹介文は引用を用いていきたいと思います。

それでは早速感想を。

「ああ、面白かった!」
これだけでも良いぐらいなんですが、もう少し詳しく書きましょうか。
最初に引き込まれたのが、名も無き少年と幼き頃のアルテシアが出会うシーン。つまり、冒頭から作品に魅了されていたというわけです。大好きなシチュエーションに加えて何と彼女の気高きこと! その後の成長したアルテシアの姿を読んでも、全く違和感を覚えませんでした。剣を持つにはあまりにも幼い。でも、全くその事に不自然さを感じさせない強い心、勇気ある行動、そしてそれを培った辛い過去。「武器を持つ少女」というのはよく物語の題材になりますけど、ここまでしっかり丁寧に描かれると、年齢や性別、創作であることですら些細な事実に思えてくるから不思議だなぁと。

そして脇を固める人物達も負けていません。アルテシアの影武者であるルイ、彼女の主を思う素直な気持ちがどこまでも透明で真っ直ぐで、単なる視点描写の一人ではない存在感を醸していました。彼女のその後は祝福されて欲しいなぁ。政略結婚の相手であるオウガも、決して弱みを見せない可愛げのない奴だけど、それでも捨てきれない人の子の気持ち、その思いを吐露するシーンで一気に好きになりました。結婚するまでは、男なんて結局そこに行き着くものなのかも……。情熱の人、ロージアさんについては後述しましょう。近衛のトーチカは、何とも複雑。強くなるためにあのような姿に身を窶して、でも、そこから先へは決して進めない、彼とアルテシアの主従関係は、どこまでも変わることがないんだろうなぁと想像すると、無性に寂しくなる。冒頭のシーンがあったから尚更そう感じるんでしょうかね。

そういえば彼のイメージが、妙に「キャプテンハーロック」に出てくるトチローと似ているんだよなぁ。思い切り話がそれますけど、なんだろう、物語の要所要所に松本零士先生の作品の香りが漂うような。美女と醜男という組み合わせだからか、或いは、雪山に魔女、という組み合わせだからか、一つ一つの題材を手に取ってみるとそうでもないのだけど、なんとなくそんな事も考えてしまいました。ああ、そういえば手塚先生の「火の鳥」にも似たような……と、どうでも良いことですね。年かなぁ。

先代フェルビエ族長の妹であり、アルテシアの叔母でもある、ロージア。二つの部族とそれぞれの若き族長の運命をかき乱し、情熱のままに生きたロージア。自身の腕を持っていかれてなお、兄の呼びかけに答えて誇りを奮い立たせる彼女のその姿には、思わず鳥肌が。この物語の本当の主人公は彼女だったのかなぁ、とも考えてしまいます。実際、彼女の雪蟷螂としてのあまりにも激しすぎる愛情が明らかになったところで、話の盛り上がりも頂点に達したような気がしたので。巡り会ったばかりの作品だけど、「まさに彼女こそフェルビエの女!」と変な納得です。

グダグダと書いてきたところで最後に蛇足を。
些細なことなんですが、作中に二回ほど登場人物の呼称が入れ替わっていたと思しき箇所があったんですよね。あれは、単純な校正ミスなんでしょうかね? 読む手が止まってしまったのはちょっと残念でした。それにしても、世界観とその登場人物に「確かな存在」を感じることが出来た作品は本当に久しぶりだったので、嬉しかったなぁ。意外なところで他作品との関連も確認できましたし。一年のスパンが短いのか長いのか、人によって意見は分かれそうだけど、これだけの大作は年に一回読めれば満足。うーん、三作まとめて、ジブリかNHKアニメ辺りで映像化してもらえないかなぁ……。
 
押してもらえると士気が微増します。
posted by: よしきち | ライトノベル感想 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(2) | - |

鳥に願いを。『さよならピアノソナタ4』

JUGEMテーマ:読書 

そして冬がやってきた。文化祭のライブで真冬との距離を縮めることはできたけど、あれから一週間、未だに彼女との関係は曖昧なままだ。まず頭を悩ませるのが、プレゼント。今月は彼女の誕生日なのだ。そして、その先にはクリスマスというイベントも待ちかまえている。丁度、24日に開かれるクリスマス・ライブのことを知った僕は、どうにかして真冬を誘おうとするのだけど……。

2ヶ月遅れで女の子に誕生日プレゼントを渡したナオの鈍感ぶりにはもう笑うほかないなぁ。でも、彼の行動がこれだけに止まらないというのが本作品の特徴でもあるわけで。正直、その後のプレゼントが巻き起こす一波乱には奥歯を噛みしめすぎてハグキから血が出るかと思いました。何故? とは問うまい。最早、それがナオだから、としか言いようがないから。千晶うかばれないよぅ。

今回は完結編、ということで様々なことに決着が付きました。音楽のこととか、恋のこととか、色々。そんな中でも、神楽坂先輩の告白と本音の吐露は、正直ショック。いや、恐怖? なんだろ、一瞬凄まじい女性の嫉妬を感じたような気がしたんですが。その後の感情をコントロールした立ち振る舞いで、彼女の器の大きさを改めて思い知りました。しかも、その口から語られる革命論が妙に説得力があるから恐ろしい。よもやそこから子作りという命題にまで飛ぶとは。彼女は最後まで神楽坂響子であったんだなぁと。

一年間をかけてなお、実らなかった恋。でもそれが、更に1年かけて花を咲かせるというラストには、素直に魅入ってしまいました。最後の、駅で2人が手を繋いで鳥の群れを見送るシーンは良かったなぁ。飛び立った鳥は二度と帰ってはこないけど、でも、その空をいく姿は独りじゃない。様々な障害を乗り越えて、二人の愛を掴む――なんて書いていて恥ずかしい文章なんだろうとも思ったけど、ともすればチープになりがちなこの手の物語を、曖昧に濁すことなく、堂々と正面から書ききった杉井先生に感謝です。


押してもらえると士気が微増します。
posted by: よしきち | ライトノベル感想 | 00:13 | comments(0) | trackbacks(1) | - |

ヒーローは年中無休。『世界平和は一家団欒のあとに6』

JUGEMテーマ:読書 

どんな大災厄にだってきっかけというものがある。凶悪な犯罪者にだって、地球を攻める侵略計画にだって、悪の組織の誕生にだって、邪神の復活にだって、まだ若芽の段階というものがあって、それが後々……というわけで。いつも大事件にばかり関わっているように見える星弓一家だけど、実は、そんな厄災の卵とも言うべき出来事にもちゃんと巻き込まれていたのです。シリーズ初の短編集。
『悪党退治は何カロリー?』
平和のために戦ってダイエットもしちゃおう! というお話。美智乃に対する軋人の兄バカぶりが読んでいて楽しかったです。ベタだけど、妹を助けるために参上する兄貴ってちょー格好いい。世界を守る高尚な使命も、星弓家ではこのくらいの気概で臨んでいますという良い見本。

『星の王子様』
七美お姉様の領分だったためか、あまり表だって出てくることのなかった宇宙人に関するお話。結構身近な社会問題から、惑星間の外交問題というのは発展していってしまうみたいです。そんな中での香奈子の心優しさが身にしみる。読者の想像力に委ねる部分が多かったのも面白かったです。

『刃の行方』
あまり凡人の出る幕が少ない本作品にあって、初めて、じゃないかなと思う普通の少年のお話。軋人のお祖父さんだって普通の人間だけど、どちらかと言えば例外的な扱いだし。力なき者の強い決意が、正義のヒーローを翻弄する場面は燃える。

『大邪神の夜』 
彩美&七美お姉様コンビによる伝奇的事件簿。どうやら彩美と竜助のその後は上手くいっているようです。学園ものとか、伝奇とか、湯けむりとか、果ては百合な要素まで少しずつ詰め込んであって、若干ギュウギュウな感が否めないけど、2人の過去が垣間見えて面白い。そして、やはり七美さんは最強。

初めての短編集。長編では描かれないような星弓家のささやかな日常が描かれるのかなと思ったら、サブタイトルのとおり大事件の合間も皆さん大忙しだったようです。もう少し日常の何気ない星弓家というのも読んでみたかったんだけどなぁ……。まぁ、これはこれで。一番のお気に入りは、軋人と美智乃の何だかんだといって深い絆を感じさせてくれた第1編目。巻末にオマケ掌編も収録されているのですが、超カオスです。


押してもらえると士気が微増します。
posted by: よしきち | ライトノベル感想 | 14:10 | comments(0) | trackbacks(1) | - |

歯車たちの憂鬱。『ぴにおん! 』

JUGEMテーマ:読書 
発火能力者、といえば聞こえは良いけど、指先から火がちょこっと出ますという程度の能力では誰も見向きもしてくれない。佐々木与四郎は、一応超能力者だ。でも、その大したことのない能力が人生に良い影響を及ぼしたことなど一度もなかった。こうなれば自棄だ、とテレビ出演をしてみたりもしたが、あまりにショボ過ぎて誰からも本物だと信じてもらえない。ならば、と新天地での高校生活をスタートさせてみたところ……いきなり可愛い女の子が立て続けに求婚してきた! なぜ!?

恋愛シミュレーションなどでよくあるハーレム展開にもっともな理由を付けてみました、という最近ではそれほど珍しくないテーマに挑んだ作品なんだけど、これが読みやすいし小気味の良いギャグも織り込まれていて、一気に読んでしまいました。薄幸すぎる主人公にとにかく涙。遺伝子しか愛してもらえないだなんて……。今までの不遇さ故にウハウハ展開を受け入れられない、という彼の卑屈な小市民ぶりで更に涙です。そりゃ、疑り深くもなりますよね。

そして、ヒロインたちの濃いキャラっぷりが良いなぁ。特に好きだったのはニーナでしょうか。二葉の全然バランスとれてないツンデレッぷりにも惹かれるものがあったんですが、やっぱり素直で優しい子は強い。ナナもその二面性がお気に入りだったりするのですが。うまく三人のヒロインの書き分け、というか際立たせ方が成されていたのが印象的でした。嘘とホントの出来事がごっちゃになっていて、少しアクの強さも感じたりしたんですが、全体的にバランスのとれた構成は読後感が良いです。主人公には、もう少し幸せになって欲しかったなぁ。続編が出るならそちらの方に期待したいです。


押してもらえると士気が微増します。

posted by: よしきち | ライトノベル感想 | 20:09 | comments(0) | trackbacks(1) | - |

野性的な彼女。『やってきたよ、ドルイドさん! 』

JUGEMテーマ:読書 
私立森野学園に季節外れの転校生がやってきた。アイルランドからの帰国子女だという彼女は、クラスの誰もが絶句するほどの超絶美人。しかも、その背後からはクマだのライオンだのワニだのと、別の意味で絶句してしまう獣たちがぞろぞろと。そう、彼女こそはドルイド――自然を愛し、森の木々や動物たちと共に生きるという、古代ケルト民族の司祭だったのだ!
最近百合が多いなぁとこの前の記事で書いたらまた百合でした。いやでもこの場合は限りなく愛情に近い友情と解釈するべきなんでしょうかね。百合だから駄目という読まず嫌いでもないので、それほど気にしている訳ではないのですが。

シャレリアの破天荒ぶりが読んでいて楽しかったです。ヒロインというよりは主人公気質なんですよね。それに振り回されつつも、地の文で自分の欲望をさらけ出してしまう夏穂も好み。でも、これだけ女性の園だと、却って出番の少ない男性陣にも目がいってしまいます。頑張れ須田翔太。「水でいい」と言い切ったその卑屈さが眩しすぎる。動物たちが全然活躍してないじゃん、という突っ込みもあるんですが、安心して読める物語だったので次回作にも期待したいです。
posted by: よしきち | ライトノベル感想 | 15:28 | comments(0) | trackbacks(1) | - |

お姉ちゃんと私とお姉さま。『どろぼうの名人』

JUGEMテーマ:読書
初雪はお姉ちゃんが大好き。お姉ちゃんも初雪のことが大好き。でも、初雪は川合愛さんの妹にならなくてはならない。大好きなお姉ちゃんを守るために。もちろん、期限付きで。そうしてこの奇妙な生活がスタートした。
右を向いても左を向いてもお姉さんと妹しか出てきません。ああ、あと可愛いツインテールの女の子と、逞しいナイスガイたちも若干数十名ほど出てきます。思いっきり百合百合していますが、狙ったような感じではなく、あくまでも作品の雰囲気として溶け込んでいたので、それほど気にはならなかったように思います。読みやすい文体も好み。

主人公である初雪の視点から物語が語られていくんですが、その、非日常な出来事の中でものんびりと構える考え方が好きでした。なんか世界観がとんでもないことになっているみたいなんですが、それをそうと感じさせず、突然読み手にポンと提示してみせる手法もなかなか。というか故郷が、私の故郷が大変なことに。あとがきで、この作品は色々な話を元にしていると書かれていましたが、特に印象的だったのは「ルパン三世カリオストロの城」からのインスパイア。警部のお言葉ではなくて、最後の方に登場するナイスガイな野郎ども。妙に埼玉県警機動隊の「気持ちのいい奴ら」とタブって仕方がありませんでした。大きな世界観の中のとても小さな物語。
posted by: よしきち | ライトノベル感想 | 13:32 | comments(0) | trackbacks(1) | - |

悲しみ奏でて。『ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート』

ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート (MF文庫 J も 2-1)
ベネズエラ・ビター・マイ・スウィート (MF文庫 J も 2-1)
森田 季節
JUGEMテーマ:読書 

去年、図書委員で一緒だった神野君から電話がかかってきた。彼の告白によると、3年前に一人の女の子を殺してしまったことがあるらしい。でも、殺したはずの女の子のことを周囲の人は誰も覚えておらず、それどころか彼女が生きていたという証拠も全て消えてしまったのだという。私は、ある単語を聞いてすぐに気が付いた。だから彼の話を聞いても驚かないし、恐れもしない。だって、私もその女の子を殺したことがあるのだから……

何だろう、不思議な作品でした。オビに書いてあるほどロックや音楽が物語の中心にあるわけでもなく、かといって得体の知れない存在と戦うことが目的のストーリーでもなく。敢えて表現するというのなら、この作品に登場する3人の主人公たちの存在している空間そのものの雰囲気、というか空気みたいなものが芯に据えられていたのかなと。それぐらい、色々な要素が上手く溶け込んでいた作品でした。

そしてラストが素敵。こういうの好きなんですよね。読み手には暗い最後を暗示させておきながら、土壇場でそれをひっくり返すみたいな。それに3人の関係がとっても奇妙で面白いんです。マクロスFじゃないけど、君は誰とキスをする?的な滅茶苦茶な関係から、最後はちゃんと落ち着くところに落ち着いていたのがツボ。相手の些細な癖に目がいってしまう事から、自分が本当に好きだった相手にようやく気付く、という描写には思わず唸ってしまいました。タイトルの通り、甘くてちょっと苦い恋の物語。
posted by: よしきち | ライトノベル感想 | 21:52 | comments(0) | trackbacks(2) | - |

ラノベ作家の奇妙な体験。『ばけらの!』

ばけらの! (GA文庫 す 2-1)
ばけらの! (GA文庫 す 2-1)
杉井 光
JUGEMテーマ:読書 

杉井ヒカルの隣人はオオカミっ娘。比喩表現ではなくて、正真正銘の狼女だ。そしてアパートの大家は神出鬼没の可愛い座敷童。たまに遊ぶ友人たちは、底なし胃袋の屍鬼(グール)や子作り精神旺盛の淫夢魔(サキュバス)、欲求不満の吸血鬼と全員人外のヒト?ばかり。昼間からパチンコしたり花見したり、夜は夜で麻雀大会開いたり、一体全体、おまえら仕事はどうしたんだと言いたくなるかも知れないけれど、大丈夫、実は彼ら全員ライトノベル作家だったのです。

本当に杉井先生は、こういう物語が得意なんだなぁと。ボトムズな人間たちが集まって、大した理由もないのに馬鹿騒ぎして、仲間のために笑ったり、仲間のために悲しんだりして、あげく、一人を救うためにみんなで頑張って、そして自分たちの居場所を守り抜く。まんま『神様のメモ帳』テイストな作品なんですが、そんなこと気にする事なく楽しむことができました。

一番好きな登場人物は、やはりイズナでしょうかね。尻尾の仕草一つ一つが可愛いのですが、見事なネトゲ廃人ぶりもツボです。あと座敷童子のつばさちゃんもいいなぁ。欲望に忠実で尚且つ言ってることがよく分からないエムさんも好き。屍鬼さんも良い人だしなぁ。ああもうみんなまとめて大好きと書いてしまおう。

発売前からメタ小説として話題になっていた本作ですが、それほど意識する事なく読み終えました。登場人物に一定のモデルがいるという事実は、知っていた方が楽しめるような気もしますが、それだけが話の魅力ではないことは確か。作者の暖かい友好関係が伺える、楽しくてちょっぴり切ない幸せな作品だったと思います。あと、杉井先生の作品を何冊か読んだことのある人なら分かる、ちょっと唐突気味な〈了〉の文字も、今回は仕掛けとして働いていたことに驚かされたりしたので一応書き留めておこうかなと。
posted by: よしきち | ライトノベル感想 | 23:27 | comments(0) | trackbacks(1) | - |

帰巣。『さよならピアノソナタ 3』

さよならピアノソナタ 3 (3) (電撃文庫 す 9-9)
さよならピアノソナタ 3 (3) (電撃文庫 す 9-9)
杉井 光
JUGEMテーマ:読書 

哲朗の代わりに蛯沢千里の公演に行くことになった僕は、ペアチケットのもう一枚を真冬に渡そうと考えた。だけど、その一枚のチケットを巡って何故か先輩・千晶を巻き込んだ争奪戦が始まってしまい、その決着は今度行われる学級対抗の合唱コンクールの勝敗で決めるということに。先輩は本気みたいだ。クラス委員長の命により指揮者に選ばれてしまった僕は、どうにか先輩のクラスに対抗しようと真冬に伴奏を頼んでみるのだけど……

4人目ですよ、奥さん。いや、特に意味はないんですけどね。ユーリという本来ならば恋敵である少年すら魅了してしまうナオミって一体!とか思ってしまうんですけど、今回は彼の良いところがたくさん読めたのでまあ良しとしましょう。合唱の時も、体育祭の時も、文化祭の時も、いつも最後に良いところを持って行ってしまうのが心憎い。特に部活対抗リレーに出走したときの、あの手に汗握る戦いが印象的でした。そして、「評論家はDJ」という話の流れには考えさせられるところが多々。私なんかは感想をグダグダと書き連ねているだけの人間なので、気負いというものは感じたことがないんですが、実際に職業としての評論家っていうのは難しい立場なんだなぁと。直巳が出した答えには妙に納得してしまいました。

今回、真冬の指が動くようになったことを巡って起こる彼女と直巳との心のすれ違いが、物語全体にちりばめられているんですけど、ラストで曖昧ながらも互いの気持ちを確認することが出来たのは良かったです。胸のつかえがとれた、とでも言いますか。いらん子・哲朗が今までになく親父らしいところを見せてくれたり、クラス委員の寺田さんが絶対神ぶりを発揮したりと、脇を固める人物も掘り下げられてきたばかりだし、2人の関係が曖昧なままに終わったということは、次回作もあるんでしょうかね。期待です。
posted by: よしきち | ライトノベル感想 | 21:28 | comments(0) | trackbacks(0) | - |